子どもクラスから・1 さおりちゃんと「風の又三郎」を読む

どっどど どどうど どどうど どどう、
青いくるみも吹きとばせ
すっぱいかりんもふきとばせ
どっどど どどうど どどうど どどう   

水戸市に住むさおりちゃん(中1)と、「風の又三郎」(宮沢賢治・作)をお勉強の傍ら、毎週少しずつ読み進めています。私たちの持ち寄った本は「岩波文庫」と「新潮文庫」。同じ話だからと思って一緒に読み進めていくと、文章の違うところがたくさんあってとても驚きました。漢字の書き表し方はもちろんのこと、登場する子どもたちの学年が双方の文庫で違っていたりするのです。それに片方では、賢治の原稿が空白であったところは「空白」と書いてあって原稿に忠実であるのに対し、もう片方は編集者が想像したであろう言葉が埋めてあります。そんないろいろな違いに出合うたびに、その原稿を書いていた賢治のことが思い起こされて、二重のおもしろさです。

そして、なんといっても、随所にちりばめられた風や自然の描写のおもしろいこと!!そのいくつかをちょっと紹介しますね。

「すすきがざわざわっと鳴り、向こうのほうは底知れず谷のように、霧の中に消えているではありませんか。風が来ると、すすきの穂は細いたくさんの手をいっぱいのばして、忙しく振って、『あ、西さん、あ、東さん、あ、南さん、あ、西さん。』なんて言っているようでした。」

「霧がふっと切れました。日の光がさっと流れてはいりました。その太陽は、少し西のほうに寄ってかかり、幾片かの蝋(ろう)のような霧が、逃げ遅れてしかたなしに光りました。草からはしずくがきらきら落ち、すべての葉も茎も花も、ことしの終わりの日の光を吸っています。はるかな碧い野原は、今泣きやんだようにまぶしく笑い、向こうの栗の木は青い後光を放ちました。」

こうやってすてきな描写に出合っていくと、日本語の可能性を思って、わくわくしてしまいます。そんな感覚をさおりちゃんとシェアできるのは、とてもうれしいこと。そして、さおりちゃんのイメージの力が育っていくのを傍らで見守るのも、私の愉しみのひとつなのです。

※この文章は、さおりちゃん本人の承諾を得て掲載させてもらっています。
by emispiral | 2005-01-20 01:53 | 子どもクラス

水戸 恵藍舎だより


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