らせん式日記・109  「ミュージアムの居心地」

 10月末に再び「ステキアート」の月例研究会に参加してきました。発表者は、常磐大学の水嶋英治先生で、タイトルは「ミュージアムの居心地」。

 水嶋先生の専門は博物館学、文化財保存学。博物館疲労(いいものを見すぎたり、実際の歩行距離が長かったりして疲れること)についてや、アムステルダムの精神病院博物館について、またトルコの博物館での調査の様子など、とてもとても興味深いお話を聞かせていただきました。

 まず私にとっては、博物館や美術館のあり方を研究する学問があるということが、驚き。けれども先生のやわらかな口調のお話を聞いたり、ウィットに富んだレジュメを読ませていただいているうちに、博物館学の世界に引き込まれていくように感じました。

 さて、お話が一通り終わって、最後に参加者全員に「居心地のよい博物館・美術館は?」とコメントが求められました。私はこれまで美術館の建物や空間作りという観点で眺めたことがなかったので、ちょっと困りました。博物館や美術館へは、展示されているもの見たさで足を運びますから居心地というより、見た展示物のインパクトでかなり印象が違ってしまっていて、それではフェアではないと。

らせん式日記・109  「ミュージアムの居心地」_c0030327_10535785.jpg 例えばインパクトがあったのは、「すごいものがいっぱい&その割に大雑把な展示の仕方でびっくり」と感じた大英博物館(ロンドン)、レンブラントの《夜警》に感動したアムステルダム国立美術館、念願叶って『ケルズの書』が見れたトリニティ・カレッジ博物館(アイルランド)など。 でも、居心地となると、う・・・ん、自信がない感じ。

 それで答えに窮した挙句、「人の少ない美術館・博物館がいい」などと、今となっては、専門家の方を前に失礼なことを言ってしまったかなあと少し後悔しています。でもまあ、これも実は本当に正直な気持ちではあります。東京の大きな企画展に行ったりすると、館内はどこも人であふれ返っています。他のお客さんに失礼なことをしないように見たいものをじっくり見るには、とても気を遣ったり、ストレスを感じたりします。しかも熟年男性の中には、ぶつかっても知らんぷりの方が多すぎる!(もちろんそうじゃない方もいますけど) でも企画する側から見たら、あふれるほど人が入れば企画展は大成功。 お客さんの見やすさや居心地とは、反比例する仕組みです。

 と、その日は思いつく場所がなかった私でしたが、ついに「居心地のよい」と言える美術館との出合いがありました。水嶋先生のお話を聞いて、「ミュージアムの居心地」という観点を”インストール”したおかげだと思います。その出合いは、茨城県天心記念五浦美術館のこと。今年開館10周年ということですが、私は先週末に初めてこの美術館に足を運びました。 まったくもって、灯台下暗しでした。
らせん式日記・109  「ミュージアムの居心地」_c0030327_10483876.jpg

らせん式日記・109  「ミュージアムの居心地」_c0030327_10573669.jpg 
 まず何といっても、この美術館は建築的にとても美しい。外観はあまりそう感じませんでしたが内装の意匠が本当にすばらしいのです。無垢材のフローリング(部分)、木製の自動ドア、かき落し仕上げの土壁、海を一体化させる大きな窓ガラス。


 国宝・重要文化財などを展示する「どうだ!」という企画展をしていましたが、人もかき分けるほどはいなくて、ゆっくり見れる・・・。また資料コーナーも落ち着いていい感じでした。こんな素晴らしい美術館に10年も行かずにいたなんて、ちょっと時間が悔やまれる感じさえしました。
 
 水嶋先生のお話から博物館や美術館を見る新しい物差しをいただいて、今後は違った面からも博物館や美術館を楽しめそうです。機会があったらまた水嶋先生のお話を聞かせていただきたいなあと思いました。
by emispiral | 2007-11-08 10:55 | らせん式日記

水戸 恵藍舎だより


by emispiral